観光庁の訪日マーケティング戦略を分析(英語圏の各国市場で)
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2023年6月29日、観光庁より「2023~2025年度訪日マーケティング戦略」が発表されました。内容は以下3つで構成されています。
①市場別戦略……重点市場ごとのターゲット層のセグメント化+プロモーション方針
②市場横断戦略……高付加価値旅行などのカテゴリーごとのプロモーション方針
③MICE戦略……国際会議・インセンティブ旅行の誘致戦略
とても簡潔にまとまっているレポートなので是非上記リンク先からソースをご覧いただけたらと思いますが、以下、本稿では①の内容について主に解説していきます。
観光庁 市場別インバウンドマーケティング戦略概要
①の「市場別戦略」は、重点市場扱いの国毎で年代や訪日経験などの属性で細かくターゲット設定を行い、そのターゲット層ひとつひとつに対するプロモーションの方向性を定めたものです。それぞれの市場別マーケティング戦略はJNTOでの市場調査を基にされているため、お時間があればそちらも閲覧されるとより参考になります。
以下では、ジャパンガイドが注力している英語でのプロモーションに関係する欧米豪や東南アジアの主要市場について取り上げていきます。
英語圏最大の来客数を誇るも、まだまだ伸びしろのある米国市場
2019年度来客数は170万人を超え、英語圏最大の訪日旅行者数のある米国ですが、実はまだまだ伸びしろのある市場です。
今回の米国市場マーケティング戦略では非常に重要な一文があります。それは「米国市場においては訪日旅行者数の増加を優先する」ことが明言されている点です。
コロナ禍以降の訪日インバウンド戦略では、「来客数よりも一人あたり消費額」を重視する傾向にありますが、そうしたなかでこの一文は非常に大きな意味を持ちます。おそらく、米国市場における伸びしろ+旅行者1人あたり消費額の大きさという特徴が考慮された結果と考えられます。
市場内でターゲットをより細かくセグメント化されていますが、プロモーションは大きく次の3つの方向性に分かれます。
・新規層=ゴールデンルートを主軸とした訪日需要増大を目指して新規開拓
・リピーター層=北海道をはじめとした地方誘客の促進
・超富裕層=高付加価値コンテンツ等を通じて消費額向上
カナダ市場でのプロモーションは、米国への新規開拓と同様
同じ北米圏に属するカナダも「訪日旅行者数の増加を優先する」方針が明言されている市場です。カナダは市場規模(推定850万人)に対して2019年度の訪日旅行者数38万人と、米国よりも低調な浸透度であるためか、より新規開拓にフォーカスされた戦略となっています。基本的には米国に対する新規開拓の動きに近いプロモーションになっていくものと思われます。
(北米市場)ジャパンガイドでの特徴:サイト登録者の訪日リピーター率約70%
ジャパンガイドにおける米国ユーザーの最大の特徴は、圧倒的な利用者数の多さです。
下の図表1は、上記期間におけるサイトアクセスユーザー数上位5か国の流入経路別データです。3か月間でジャパンガイドを訪れた米国ユーザー数は合計124万人超で、これは2019年度の米国からの年間訪日旅行者数の約70%にあたります。
内訳を見ると、98万人と非常に数の多いオーガニックサーチの流入が目につきます。これはGoogle等で地名等を入力してジャパンガイドに辿り着いた人達で、ここには初めてサイトに訪れた人が多く含まれています。
「直アクセス」はブックマーク等でジャパンガイドを継続的に見ている層で、こちらは23万人となっています。ブックマークしているくらいなので、この23万人には訪日リピーターが相当数いるものと思われます。
訪日リピーターと言うと、過去にジャパンガイドのサイト登録者を対象として集計したアンケートでは、上記図表2の通り「訪日経験あり」と答えた米国ユーザーは269名中183名(68%)、うち訪日経験2回以上が151名(56%)という結果が出ています。
日々のオーガニックサーチでの新規流入数が多い一方、コアなリピーター層も多数ジャパンガイドを利用しているため、米国ではそのどちらにも効果的なアプローチを行うことが可能です。
1人あたり旅行消費額向上と地方誘客にポテンシャルのある豪州市場
来客数では米国市場に劣るものの、比較的アクセスが良く、米国よりも成熟度が高いと考えられる英語圏市場がオーストラリア(以下 豪州)です。
2019年度訪日旅行に関してJNTOが発表したところによると、来客数は62万人と米国の約36%程度の規模ですが、1人あたり旅行支出額は主要訪日国で最大だったのが豪州です。非常にコストパフォーマンスの良い市場であると言えます。
20代-40代の比較的若い層を中心として地方の人気が高めである点、自ら手配するFITでの旅行比率が高い点なども特徴として挙げられており、インターネットを中心としてローカルフードやその地域ならではの自然景観の魅力を的確に訴求し地方誘客に繋げていくことが重要と考えられます。
(豪州市場)ジャパンガイドでの特徴:能動的に旅行計画を立てるアクティブな旅行者の比率が高め
ジャパンガイドには4月~6月の3か月間で36万人の豪州ユーザーが訪れていますが、自ら能動的に旅行計画を立てていると思われるユーザーの割合が多い点が特徴です。
下記図表3はサイトユーザーの旅行計画作成をサポートする目的で作られたコンテンツへの4月~6月の期間で集計し、主要国毎のPV数を見た結果です。
ここでは主に「サイト内総PV数」での米国18.33%と豪州8%の比率を基準に、ページ毎のPV数における両国ユーザーの占める割合を比較することがポイントです。
「目的地」のページではそこまで大きな差は見られませんが、「旅程提案」や「フォーラム」へのアクセスでは母数が倍以上の米国ユーザーのPV数に匹敵する数字を出しており、「訪日旅行時季」のページへのアクセスでは米国以上のPV数を出しています。
サイトを使って旅行計画を立てているユーザーの姿を思わされる結果ですが、こういった情報は「豪州市場では自ら手配するFITの旅行者が多い」というJNTOの発表内容ともリンクする部分です。
生涯リピーターの育成を目指すシンガポール市場
英語圏の国々の中でも日本にアクセスしやすい位置関係にあるシンガポールは、国籍保有者の7割以上が訪日旅行経験者と言われており、英語圏においても東南アジアにおいても屈指の成熟市場です。そのような成熟市場に対して、観光庁のマーケティング戦略では次のような点が読み取れます。
・リピーターの地方訪問率・認知度が高いため、積極的に地方誘客を推進する
・ハネムーン等の特別な機会や、ライフスタイルの変化等に応じた訪日旅行を通じて生涯リピーター層を育成する
・広告やインターネットなど、BtoCでのプロモーションに注力
(シンガポール市場)ジャパンガイドでの特徴:名古屋を筆頭に、地方の観光案内ページへのアクセス比率最大を誇る市場
シンガポールは、日本の入国規制緩和が決まってから最も早くジャパンガイドへのアクセス数値にリアクションが見えた国でした(こちらをご参照)。このリアクションの速さは、訪日意欲の高さに加えて訪日情報への感度の良さからくるものと思われます。
ジャパンガイド上でのシンガポールユーザーの特色は、地方観光情報へのアクセスの多さです。上記図表4をご覧ください。こちらはシンガポールからのアクセスが特に好調だったページを抜粋し、一番下に比較対象として東京や京都のページのアクセス情報も載せたものです。参考までにお隣のマレーシアの情報も米豪に加えて掲載しています。
北海道や九州など地方の観光情報に最もよくアクセスしているのがシンガポールであることが確認できます。特に立山黒部アルペンルートや北海道など、雪と縁が深い地域へのアクセスがマレーシアと共に良いのは東南アジアの特徴と考えられそうです。
特筆したいのは、ボリュームの大きい名古屋のページです。4-6月のPV数89,221回のうち約20%にあたる17,743回がシンガポールからのもので、ジャパンガイド上で見る限り名古屋に最も関心のあるのはシンガポールのユーザーということになります。お隣のマレーシアの数字がサイト全体と比較してそう変わらない点からも、名古屋へのアクセスの多さは直行便のあるシンガポールならではの傾向と言えそうです。
ゴールデンルート上で見ても面白い点があり、シンガポールユーザーからのアクセスは米国とも豪州とも違い、大阪>京都>東京となっており、こちらはマレーシアも同様です。東南アジア市場では東京圏よりも関西圏のほうがより魅力的に捉えられていることが伺えます。
訪日未経験者8割、インターネットを通じた日本ならではな魅力の発信が重要な英国市場
距離の影響もあって欧州からの旅行者は訪日滞在が長い傾向にあり、1人あたりの消費額も高めですが、来客数自体は少なめです。欧州で最も訪日者数が多い英国でも訪日未経験者は全人口の8割と言われており、欧州市場における訪日旅行のプレゼンスは小さいと考えられます。
英国市場に対する観光庁のマーケティング戦略は、世代によってアプローチを変えることが表明されています。50代以上のハイエンド層に対しては現地メディアや旅行会社との連携などBtoBでの新規開拓を目指し、元々訪日意欲が高めと考えられている20-30代の層にはインターネットを中心とした発信にて地方誘客を促していくという方針です。
(英国市場)ジャパンガイドでの特徴:具体的なスポット名よりも概要的な内容にアクセスがいく傾向
訪日旅行において英国市場はまだまだ未開拓な領域ですが、4月~6月の3か月で25万人ものユーザーがジャパンガイドにアクセスしており、国毎で見た場合には上位5か国に入ります。
興味深いのは流入経路で、詳しくは先述の図表1(下記再掲)のグラフをご確認ください。
米国などと比較して、青い棒と赤い棒の差が少ないことが確認できます。
赤い棒はブックマーク等による直アクセスで、この比率が非常に高いのがジャパンガイドにおける英国ユーザーアクセスの特徴です。逆に言うと、オーガニックサーチでのアクセス比率が低いとも言えます。
直アクセス数が英国とほぼ同等なのが豪州ですが、オーガニックサーチ数には大きな開きがあります。これは両国における訪日旅行のプレゼンスの差が現れたものでしょう。
オーガニックサーチ流入の相対的な少なさのわりに直アクセスの比率が大きい点は、プレゼンスさえ改善できれば日本のファンになってもらえるという意味での「ポテンシャルが高い」とも考えられます。英国をはじめとした欧州市場は長期滞在が多く消費額も大きいため、今後の訪日インバウンドにおいて欧州でのプレゼンスの向上は大きな課題と言えるでしょう。
まとめ
ここまで、長くなりましたが米国・カナダ・豪州・シンガポール・英国といった英語圏に関する観光庁市場別マーケティング戦略の内容をなぞりつつ、ジャパンガイドでの各市場ユーザーの特徴を簡単に触れてきました。
観光庁でのプロモーション戦略については、それに併せてビジネスを展開される事業者様には勿論、草の根的に誘客を行う事業者様にとっても今回の観光庁発表やその基になったJNTOの調査内容は参考になる部分の多いものだったと思います。
最後に、観光庁マーケティング戦略でも度々触れられている「地方への誘客」に関して、今年の1月に新潟県様の案件で米国・豪州・シンガポールをメインターゲットにジャパンガイドで作成した動画プロモーション事例を紹介させていただきます。
英語圏の訪日旅行者のうちでも特に米国・豪州・シンガポールの3か国を念頭に置いて作成した動画で、東京から2泊3日で県内各地を巡り、新潟県の個性である豊かな食や伝統工芸などをタイムスリップのような体験ができる古い街並みと併せて紹介することをコンセプトにしています。
公開後2か月での視聴数は18,063回とチャンネル平均にあたる数値でしたが、ターゲット設定した国々の20~40代を中心とする層から多数の高評価をいただくことに成功しました。こうした高評価や平均視聴時間の長さの結果、公開から半年以上が経った現在でも日々一定以上の視聴者がついており、現在では視聴回数約29,000程となっています。
英語圏ユーザーへの動画プロモーションについては別途紹介した記事がありますので、そちらもぜひご参照ください。