敢えて広告を使用しない、地域プロモーション動画のすすめ
ブログ
近年では動画での観光プロモーションの有用性も知られるようになり、公募案件の中でも動画制作を内容とするものは増えています。しかし、残念ながらせっかく美しい映像の動画を作成したにも関わらず、ターゲットの目に届けることが出来ないままになっているケースも多々見られます。
今回はそのような状況を踏まえて、2016年にYouTubeチャンネルを開設して以来ジャパンガイドで実践している動画プロモーションについて、直近の動画制作を例としながら解説していきます。
ジャパンガイドでの基本的な動画プロモーション方針
ジャパンガイドの動画では広告を使用していません。
これはYouTube上での動画に対する評価を優先してのことです。というのも、広告を使用すると、中長期的には期待に反する結果に繋がりやすくなってしまうからです。
YouTubeには、評価が高い動画ほどプレゼンスが上がり、その動画ジャンルに興味を持つユーザーに表示されやすくなるブラウジング機能という仕組みがあります。
ここで言うYouTube上での評価は、ユーザーからの「高評価」の数だけに依らず、視聴者が動画の尺の何%まで視聴したかの集計値(視聴者維持率)にも左右されます。
訪日旅行の動画は、訪日旅行に意欲的な層には最後まで視聴してもらえることを見込めますが、日本に興味のない人が視聴した場合は冒頭の数秒で離脱されてしまいがちです。単純に視聴者数だけを伸ばしても、後者の割合が高いと結果的に視聴維持率が下がってしまいます。
そして、広告でリーチする視聴者層は、どちらかというと「興味のない人」であることが多めです。
逆に言えば、広告に頼らず自然流入(オーガニック)にフォーカスすれば、視聴者をコンテンツと親和性の高い層に保ちやすくなります。そうすることでYouTube上での評価を長く高いまま保持できるため、瞬間最大風速的なバズではなく、中長期的な数字の積み上げを狙っていくことができます。
このようなジャパンガイドでの動画プロモーションについて、より詳細が知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
ただし、このやり方でいく場合、広告でのバズという飛び道具を使わない分、コンテンツとしてのクオリティがより問われる形となります。この点、ジャパンガイドでの動画制作において大切にしていることは、常に視聴者のニーズを想定し、有益な情報を届けることです。
英語で発信している動画のため視聴者は欧米豪など英語圏を中心とした訪日旅行に意欲・関心のあるユーザーですが、その人達がどんな情報を欲しているのか、どんな動画ならばその人達の役に立てるのかを考えて制作することが重要です。ユーザーにとって有益なものを作ることができていれば、中長期的なプロモーション効果を期待することができます。
以下では具体的な動画名を踏まえてどのようなコンテンツを制作し、どのような結果に繋がっているかを紹介します。
視聴者がそのまま採用できる旅程紹介動画の例
まず地域プロモーションとしても応用しやすい例として、ある自治体よりご依頼いただいた動画で、特定の地域を2泊3日で旅して廻る旅程を紹介した事例を挙げさせていただきます。
このような旅程紹介のシリーズでは、実際に旅行者がそのまま旅行の際に採用して楽しめることを意識して制作しています。
そのため、地域プロモーション動画等でよく見かける、様々なスポット多数を短時間に詰め込む構成にはせず、見せるスポットは厳選して、ビジュアルでの魅力付けだけでなくアクセスやその場所で何が楽しめるかなどといった視聴者が本当に知りたいをわかりやすく紹介するようにしています。
詳しい内容はぜひ実際に動画を視聴していただけたらと思いますが、1泊2日や2泊3日などで楽しめるモデルコースを用意されている地域であれば、このような動画のような旅行者がそのまま旅を出来るような内容で見せることが効果的です。
以下は今年公開したある地域における旅程紹介動画の視聴データです。
注目は右側のグラフでも見られるように、全体の53%にあたる視聴回数22,740回を記録したブラウジングでの流入です。ブラウジングとはYouTubeが視聴者のこれまでの行動履歴からトップページ等におすすめ動画を表示する機能です。
YouTube上での評価が高い動画は、動画内容に関心を持ってもらえそうな視聴者におすすめ表示されやすくなります。その結果が532,848回というインプレッション(表示回数)に現れています。
10分以上の動画の場合、YouTube上で高く評価されるには視聴者維持率(平均再生率)が30%以上あることがひとつの基準とされていますが、この基準を満たしています。これらに加えて1,155件のユーザーから寄せられた高評価もYoutube上での評価に貢献してくれています。
上記図表2は、公開から二か月間の流入経路別視聴数推移です。
基本的に公開当初は数字が伸びやすく、ブラウジング機能や外部流入(Googleなど)から訪れたユーザーが非常に多く視聴をしているのがわかります。
1週間程度で公開直後のブーストは収束しますが、その間にYouTube上での評価を高めることに成功したため、その後8月23日までの間をブラウジング機能での流入を中心として1日400~1200回の視聴数で推移しています。その後はブラウジングでの流入も落ち着き、一日150~200回視聴程度の数値に落ち着いています。
これだけを見ると公開2か月程度で動画の寿命が来てしまうように思えてしまうかもしれませんが、視聴維持率を高水準で保っているため、今後また山が来て視聴数が集まることを期待できるのがオーガニックでの流入に力を入れた動画プロモーションの特色です。そうした長期的なプロモーション効果については下記リンク先の記事で具体例付きでまとめています。
訪日に関する重要なTipsを紹介するHow to 動画の例
続いて、訪日旅行中に役立つ知識を紹介した動画の例として、2023年8月8日公開の「New JAPAN RAIL PASS | From October 2023」を紹介します。
こちらは2023年10月に予定されているJapan Railパス(通称JRパス)の価格や仕様の改訂という、訪日外国人目線では非常に重要なトピックを題材にした動画です。視聴すれば新たなJRパスの詳細がわかるような動画になっています。
この動画は公開されてから一か月の間で既に10万再生を達成しており、8月で最もよく見られたジャパンガイドの動画となりました。これほどまで伸びたのは、旬な話題を取り入れたからと考えられます。各数値は下記図表3の通りで、ブラウジングも一か月で4万越えと先程の動画の倍の伸びを示していますが、外部からの流入の多さも目につきます。
外部流入といっても90%以上はGoogleからです。動画を公開してすぐにGoogle上で「New Japan Rail Pass」「Japan Rail Pass October」「JR Pass 2023」などの検索キーワードで上位表示されるようになり、多くのユーザーが流入してきたと思われます。
日ごとの推移を見ると下記図表4のようになっています。
公開後1週間の視聴数は合計68,179回ですが、そのうち60%以上は外部ソースからの流入です。が、外部流入の影響は最初の1週間を過ぎて以降はほとんどなくなります。
その後はブラウジング機能を中心に1日1,000~3,000の間の流入が続いた後、9月には波が落ち着きます。落ち着いてからの視聴数はグラフ上では小さく見えますが、それでも1日400回以上の視聴数は回っており、この調子で続けば月12,000回の視聴数が追加されて来年の今頃には20万再生を越えていることが見込めます。
話題性に乗った外部流入でのブーストについての判断は難しいところです。図表3を見て頂ければわかる通り、外部流入での平均再生率は15.47%と、全体での平均再生率を大きく下げています。対してブラウジングやYouTube内検索での流入は平均再生率45%越えと高水準を維持しており、波が収束して以降も一定以上の視聴者を集めることができているのはこのおかげでしょう。長期的な視点で考えると、優先すべきはターゲットとなる視聴者の需要をいかに満たし、有益な情報を伝えてしっかり見てもらえるような内容にできるかです。
こちらの動画は旬な話題に則った内容ですが、あくまでも本題はJRパスの詳細な内容の解説です。このような訪日旅行をする上での役立つ知識を紹介したものをHow to動画と呼んでいます。
How to動画で最も累計視聴者数が多いのは「Staying at a Traditional Japanese Inn | Ryokan & Onsen」という動画ですが、平均再生率45.9%と安定して評価を高めることに成功した動画がいかに長期的にプロモーション効果を挙げているかの参考に、2020年8月公開以降のこの動画の視聴回数推移のキャプチャを以下掲載します。
地域のランキング動画の例
最後に、地域のオススメを紹介していくランキング動画の事例として、今年の5月に公開された「Top 5 Things to do in Hiroshima」を紹介します。
この手のランキング形式は旅程動画やHow to動画と比較してもシンプルで、ジャパンガイドでも「日光」「金沢」など様々な地域において同様の動画を制作しています。
シンプルな分、視聴者が本当に必要とする情報を伝えることには拘る必要があります。「視聴者はただランキングを見たいのではなく、その地域で何が楽しめるのか、概要を把握することを望んでいる」ということを念頭に、その地域の特色やスポットの魅力をコンパクトにまとめるようにしています。詳細はぜひ実際に動画をご覧ください。
この広島の動画は、5月1日の公開から9月1日までの約4か月間で合計85,023回の視聴を記録していますが、内訳を見るとYouTube内検索からの流入が非常に多かったのが特徴です。
YouTube内検索での流入が多い場合の特色は、インプレッションのクリック率(上記図表5の「CTR(%)」)が高くなる点です。
インプレッションとはユーザーの画面上にコンテンツが表示されることですが、上記図表を見るとインプレッション数自体はYouTube内検索よりもブラウジング機能でのほうが多いことが確認できます。であるにも関わらずYouTube内検索のほうが流入が大きくなるのは、ブラウジング機能とYouTube内検索でのインプレッションの質的な違いに由来します。
ユーザーがYouTubeを触っている際にトップ画面上などでおすすめとして表示されるのがブラウジング機能でのインプレッションで、この場合ユーザーの立場は受動的です。それに対して、YouTube内検索でのインプレッションはユーザーが特定のキーワードを入力してコンテンツを探している時に出てくるものであり、ユーザーはより能動的な状態にあると言えます。このため、インプレッションのクリック率もより高いものとなり、またブラウジング機能以上に平均再生率も高くなる傾向にあります。
具体的にどのようなキーワードで検索されていたかを見ると「hiroshima」「hiroshima travel」「hiroshima japan」「things to do in hiroshima」といったものが中心です。YouTube内検索が好調な理由のひとつには、今年の5月に行われたサミットの影響で「Hiroshima」のプレゼンスが世界的に向上した影響も伺えます。
上記図表6は公開以降4か月の流入経路別の視聴数推移です。公開当初大きな割合を占めていたのが外部流入であるのに対して、ちょうどサミットの前後くらいから少しずつYouTube内検索の流入ウエートが大きくなっています。
冒頭でYouTube内での評価の重要性について述べましたが、ユーザーから寄せられた高評価の数や平均再生率の良さに加えて、インプレッションに対するクリック率の良さも評価に影響を与える部分です。
そのため、可能であれば「平均再生率」「インプレッション対するクリック率」の双方を高水準で見込めるYouTube内検索での流入拡大を狙うのがオーガニック流入向上施策としては最適であると考えられます。
しかし、地域で作れるコンテンツ内容が必ずしもYouTube内で検索されやすいものに合致するとも限りませんし、こちらの動画がサミットという恩恵を受けたように、タイミングが影響するところもあります。また、SEO的な見識も必要となり、よりハードルの高いものでもあります。
そのため、YouTube内検索は狙えるなら狙うに越したことはないですが、まずは視聴者にとって有益なコンテンツを作ってブラウジングでの流入向上を目指すことを狙うほうが堅実と言えます。
まとめ
以上、長くなりましたが、動画プロモーションについて、ジャパンガイドでの事例を数値的な実績も踏まえて解説してきました。
各ポイントを簡単にまとめていくと次のようになります。
・広告を使わずオーガニックでの流入を向上させることで、動画プロモーションは長期的な効果を期待できる。
・ターゲットとする視聴者にとって本当に有益な情報を伝えていくことができていれば、オーガニックでの流入という形で数値が付いてくることを見込める。
・理想的なのはYouTube内検索での流入が大きくなることだが、偶発的な要素も含め、ハードルが高め。まずはコンテンツの質を保ってブラウジングでの流入を向上させることを優先したい。
他にもジャパンガイドのYouTubeチャンネルでは様々な動画を公開しているので、動画プロモーションを検討されている地域の方々はぜひこちらを参考までにご覧ください。
受託案件での実績についてはこちらもご参照ください。