訪日個人旅行解禁から1年が経過、インバウンドの現在地
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2022年10月23日にインバウンド個人旅行の解禁が実施されてから1年が経ちました。想像していたよりも早く回復していく訪日インバウンド需要の対応に追われてしまった事業者の方も多々いらっしゃることと思います。
本稿では、インバウンド解禁の一年というイレギュラー期間であったこの一年間の動向が、今後のインバウンドを考える上で参考となることを考慮し、2022年10月から2023年9月末までの一年間のjapan-guide.com(以下、ジャパンガイド)上でのアクセス推移について解説させていただきます。
訪日旅行者数とジャパンガイド利用者数の推移
まずはこの一年間のジャパンガイド(表中ではJG)のユニークユーザー数(以下、UU数)推移を出させていただきます。下記図表1をご確認ください。
せっかくなので、コロナ前の同じ期間と比較できるような形でご覧いただきます。左のテーブルの青欄は入国規制緩和後の2022年10月~2023年9月のもの、橙色の欄はコロナ禍以前の2018年10月~2019年9月のものです。
こちらを、よりコロナ禍からの回復がイメージしやすいよう可視化したのが右側のグラフです。このグラフに関しては、入国規制緩和以前の様子を見て頂いたほうがその後の順調な回復ぶりをイメージしやすいため、2022年9月のデータも入れています。
青線(2022-2023年)の動きに注目してください。入国規制緩和が発表されたのは2022年9月11日で、実施に移されたのが10月23日でした。9月から11月にかけて線が上向き続け、12月からはコロナ禍以後の2022-2023年の数値のほうが橙色の線(2018-2019年)のUU数を上回っているのがわかります。
英語での情報発信を行っているjapan-guide.comのメインターゲットは欧米豪を中心とした訪日旅行に関心を持つ英語圏の国々のユーザーで、特にアクセスが大きい国名を挙げるとアメリカ合衆国、オーストラリア、英国、カナダにシンガポールを加えた5か国です(年によってインドネシアやフィリピンなどが大きく伸びることもあります)。
ジャパンガイドのアクセスの回復には、これら米豪英加星5か国のうち多くが訪日インバウンド需要が既にコロナ前の水準に回復していること、又は国によってはそれ以上となっていることが考えられます。
ちなみに、JNTOが発表している訪日来客数の推移を同期間(紫:2018年10月~2019年9月と緑:2022年10月~2023年9月)で比較してみると下記図表2の通りになります。
訪日旅行者数の推移を見ると、9月になるまで紫の線に比べて緑の線が大きく下回る構図となっていることが確認できます。こちらは、中国を筆頭として訪日旅行需要の回復に時間が掛かっている国の影響が色濃く出たためでしょう。
こちらを先程の図表1と見比べると、ジャパンガイドのメインターゲットとなっている英語圏の主要な国々はインバウンド解禁から訪日需要が戻ってくるまでのペースが非常に良かったことが感じられます。
コロナ前以上の盛り上がりを見せる英語圏での訪日需要
以下の図表3は2022年10月~2023年9月(インバウンド解禁後)のジャパンガイドユーザー数トップ20の国を、コロナ前の同期間2018年10月~2019年9月と比較したものです。
テーブル右側の2列はそれぞれコロナ前と比較してのユーザーの増減数と、変化率を表しており、青で色付けしたものはインバウンド解禁後>コロナ前のもの、橙色or赤で色付けしたものはコロナ前>インバウンド解禁後のものです。
こちらからは、先述のメインターゲット米豪英加星の5か国は5.5%程度のマイナスに留まっている英国を除き、いずれもコロナ前の期間よりアクセスが伸びているのがわかります。中でもシンガポールの延びは大きく、訪日需要の強さを感じさせられます。
下がり幅が特に大きい国としては変化率72.37%のインドや75.48%の中国もありますが、特に目を突くのは変化率29.29%のインドネシアです。インドネシアは単体で100万人のUU数減のあった唯一の国で、全UU数合計の増減値-1,261,682人のうち80%近くがインドネシアからのものであることがわかります。
(インドネシアUU数の大幅減は、直行便数減少や対ルピアレートの上昇、訪日ビザ発給に関するトラブル等といった事情が考えられます)
米国に次いでUU数の多い日本国内アクセスの中身については、右側の円グラフをご確認ください。こちらはどんな言語設定の端末からアクセスされたかの内訳です。
ブラウザの言語設定は利用者が最も馴染みのある言語になっているのが一般的ですので、日本語以外の言語での利用は外国人旅行者または在日外国人によるものと考えられます。
その前提で円グラフの内容をまとめると、日本国内からアクセスしたユーザーのうち、コロナ前は86%にあたる3,268,603人が外国人によるもので、インバウンド解禁後は89%にあたる3,562,789人が外国人でした。
計算すると、インバウンド解禁後は、日本国内からジャパンガイドにアクセスしている外国人UU数がコロナ前の同期間よりも年間30万人程度増加している、という結果になります。
こういった点からもこの一年間における英語圏各国の訪日インバウンド需要回復ぶりが感じられるのではないでしょうか。
英語圏主要5か国の、インバウンド解禁後1年間の分析
最後に、英語圏の訪日インバウンドメインターゲットとなる5か国の、18年10月~19年9月までの1年と、22年10月~23年9月までの1年それぞれのジャパンガイドUU数と訪日来客数を並べて比較しやすいようにしたものを順に見ていきます。
以下図表では2022年10月~2023年9月のジャパンガイドUU数(青)、同期間の訪日来客数(緑)、2018年10月~2019年9月のジャパンガイドUU数(橙)、同期間の訪日来客数(紫)をそれぞれ表示しています。
まずは米国についての図表4をご覧ください。
米国はジャパンガイド最大のUU数を誇る国で、シンガポールやオーストラリアのUU数を足してもまだ米国のほうが高いくらいには多くのユーザーが訪れています。
ジャパンガイドアクセス数の推移を見ると、12月時点まではコロナ前のアクセスのほうが上回っていたものの、1月からはインバウンド解禁後にあたる2023年の数値がコロナ前の2019年の数値を上回っています。
一方、訪日来客数でコロナ前の数値を逆転するのは3月からです。3月以降は、4月を除く全ての月でコロナ前の来客数から10%以上の増加となっています。
米国からの訪日旅行者が多いのは桜が開花する3-4月と、あとは意外かもしれませんが6-7月です。両期間で旅行者数の差はあまりないことが殆どですが、年によって多少上下することもあります。
他の国にも言えることですが、例年桜の開花情報を確認するために3~4月は特にジャパンガイドのアクセスが伸びる時期です。コロナ禍の際中は桜関連の情報も大きく数値を落としていたのですが、コロナ禍が明けてその傾向も戻ってきており、今後も桜は訪日旅行の人気コンテンツであり続けることが予想されます。
続いて、お隣のカナダの推移を紹介します。
ジャパンガイドへのアクセスで見ると、数字の規模は大きく異なるものの動き方の傾向は米国と非常に近く、1月から訪日需要の大きな回復傾向を見せ、コロナ前同時期のアクセス数を追い抜いています。
2023年の訪日旅行者数では5月が最大の数値で同月にコロナ前の水準を上回りましたが、例年であれば3-4月にカナダからの訪日旅行はピークを迎えます。
今年に限って5月にピークが来ているのは、おそらく来客数の回復が少し遅れたためと考えられます。そのため、来年の3-4月は、2023年の同時期を大きく上回る訪日旅行者数になるのではないでしょうか(同様のことは米国にもあてはまるかもしれません)。
続いてシンガポールです。上記の図表をご覧ください。
米国と比べても訪日旅行需要の回復が顕著だったのがシンガポールで、ジャパンガイドへのアクセス数では2022年10月時点で早くもコロナ前同時期を上回る数値を記録しています。
とはいえ、来客数でコロナ前を上回るようになるのは少し遅くれて1月以降でした。
シンガポールでは例年11月から12月にかけてが訪日旅行のピークシーズンで、2018年の来客数にはその傾向が現れていますが、残念ながらインバウンド解禁直後だった2022年の11月や12月の来客数にはその傾向は見られません。
一方で2023年の11月と12月、つまりこれから年末までの期間でシンガポールの旅行者は、2019年の水準を越えて大きく伸びるのではないかと考えられます。
こちらは、2019年度に1人当たり旅行消費額が最も高かったオーストラリアのデータです。オーストラリアも米国同様、1月以降でジャパンガイドへのアクセスを大きく伸ばした国ですが、来客数でコロナ前の水準に戻るのは3月以降でした。
コロナ前の来客数を見て頂くと、オーストラリアからの訪日旅行は12月~1月と4月がピークシーズンであることがわかります。しかし、2022年~2023年の同期間の数値はいずれも低調で、コロナ禍からの回復には米国やシンガポールより時間を要したことが感じられます。
6月以降はコロナ前の水準を上回る来客数を保っており、ジャパンガイド上でのアクセスも現在進行形で大きく伸びています。こうした傾向が順調に続くのであれば、今年の12月から来年1月にかけては多くのオーストラリア人旅行者が日本に訪れるのではないかと予想されます。
北米やオーストラリアと比較してもあまり出足がよくなかったのが欧州市場です。
欧州のジャパンガイドメインターゲットとしては英国が挙げられますが、その英国はコロナ前の水準からアクセス数は若干の減という結果になっています。訪日来客数も同様で、未だコロナ前を上回る数値を記録した月はありません。
欧州での訪日需要が伸び悩んでいるのは、物理的な距離の問題だけでなく、戦争の影響でシベリア経由のルートが閉ざされていることも関係していると思われます。同様の傾向は欧州の他の国ではより顕著となっています。欧州は滞在日数が長く、費用対効果の高い市場ですが、訪日旅行者の回復にはもう少し時間がかかると思われます。
ちなみに、2019年は訪日来客数でもジャパンガイドのUU数でも9月が突出して高い結果となっていますが、こちらはラグビーワールドカップの影響によるものです。ジャパンガイドでもこの頃はラグビーワールドカップ特集ページを作っており、ラグビー人気の高い英国からのアクセスが特に増加していました。例年ならば桜の時期である3-4月が最大値となります。
ここまで英語圏の5か国のこの一年間における推移を見てきましたが、図表3~8からは興味深いことに、ジャパンガイドにアクセスするUU数がインバウンド解禁後>コロナ前となる国は、来客数においても既にコロナ前の水準を越えつつあることがわかります(逆に、アクセスがコロナ前を下回る英国については来客数も下回っている)。
まとめ
ここまで、コロナ禍明けの入国規制緩和が開始された2022年10月から一年間のジャパンガイドにアクセスする国別ユーザー数の推移を、英語圏の主要5カ国を中心に、JNTO発表の訪日来客数も踏まえながら見てきました。
インバウンドが過去最大級に盛り上がった2019年と比較すると完全回復までもう少しといったところですが、図表2で見た通り、時期が後になるほど訪日旅行者数はコロナ前の水準に近付いています。北米2カ国やオーストラリア、シンガポールなどといった英語圏の国々での訪日需要がコロナ以前よりも高まっているのも既に確認した通りです。
同様に、この1年間とコロナ前の同期間を対象としたジャパンガイドのよく見られている記事の変遷についても、いずれ紹介させていただきます。