Z世代が観光にもたらす恩恵
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デジタルマーケティング事業部の追川です。
近年、訪日観光客が順調に伸びるにつれて、今度は訪日観光客による消費額を重視しようという考え方が高まってきました。その結果、日本政府は今後、富裕層を積極的に誘致することで、消費単価を上げていこうという方針を示しています。
しかしそんな世の中の流れの中で、「富裕層とは対照的に、経済力が弱いとされる若者世代の訪日観光客がもたらす利益というのは何なのか?」についてあえて考えてみようというのが今回の記事の趣旨です。
学びへの関心が高いジャパンガイドの若い世代のユーザーたち
2020年3月以来、パンデミックによる訪日観光客の減少に伴い、ジャパンガイドのサイト全体のアクセス数も減少傾向にあります。
特にTokyoやKyotoなどの観光地のページは、旅ナカのユーザーが多かったため、サイトアクセス減少の煽りを最も受けてきました。
一方、言語、食文化、歴史などの日本に関する一般知識を扱うページのアクセス減少率は、他のページと比較して低く抑えられている傾向が見受けられます(図1)。
ページ | アクセス減少率(2022年3月 vs 2020年3月) |
---|---|
Japanese Language | -38% |
Kanji | +2% |
Food and Drink | -17% |
Popular Dishes | -20% |
History of Japan | -2% |
図1:サイト全体および主なアクセス減少率の低いページ
ページ | 18-24歳 | 25-34歳 | 35-44歳 | 45-54歳 | 55-64歳 | +65歳 |
---|---|---|---|---|---|---|
サイト全体 | 31.5% | 30.8% | 16.8% | 10.3% | 6.2% | 4.5% |
Japanese Language | 45.9% | 23.8% | 12.0% | 8.3% | 6.0% | 4.8% |
Kanji | 55.9% | 27.0% | 17.2% | 0% | 0% | 0% |
Food and Drink | 45.1% | 21.4% | 13.7% | 11.6% | 4.8% | 3.5% |
Popular Dishes | 42.6% | 27.9% | 14.0% | 8.8% | 6.8% | 0% |
History of Japan | 52.4% | 21.3% | 12.5% | 7.4% | 4.5% | 1.9% |
さらに、これらのページごとの総アクセスに占める年代別割合が以下の図2です。サイト全体では、赤ハイライトで示したように、18-24歳と25-34歳のユーザーによるアクセス数の割合がほぼ同率で並んでいます。
しかし、アクセス減少率の低い日本に関する一般知識のページでは、黄色ハイライトで示しているように、総じて18~24歳の俗にいう「Z世代」にあたるユーザーによるアクセスが、他の世代を圧倒しています。
図2:2022年3月のサイト全体およびアクセス減少率の低いページの年代別アクセスの割合
Z世代の定義・特徴とは?
欧州旅行委員会(European Travel Commision)の2020年のレポートでは、「Z世代とは1996~2012年に生まれた人々を指す」と定義されています。
またDell Technologiesが発表した調査結果によると、「仕事において重視する要素は?」という質問に対して、「安定した収入」と並んで、「新しいスキルや経験を得られること」という回答が第1位だったことから、興味がある分野に対しての学習意欲が高いという特徴があると言えます。
前述の、「ジャパンガイドのサイト内に存在する日本に関する一般知識を扱うページに対して、Z世代からのアクセスが多い」と合致する結果とも言えるでしょう。
またそのほかにも、前述の欧州旅行委員会のレポート内でも紹介されているマッキンゼーによる分析では、他の世代と比較したZ世代の代表的な特徴として、主に以下が挙げられています。
・デジタル社会で生まれ育ち、ITやSNSを使いこなす。またそれらによる影響を強く受ける
・個性を重視する
・コミュニティを求める
・会話を好む
・現実主義的
・制限されることを嫌う
判断基準の要素として、倫理観が大きなウェイトを占める
これらの特徴を観光の文脈で解釈すると、観光客としてのZ世代には、他の世代よりも以下のような傾向が強いと考えられるのではないでしょうか。
・情報収集は基本的に紙媒体ではなく、デジタル媒体で収集する
・デジタル媒体の中でも、SNS上を大きな情報源としている
・万人受けする観光地や観光商品よりも、自分の興味・関心に合致するようなものを選ぶ
・旅行中も他人との交流の機会を求める。
・旅行中の選択においても倫理観を重視し、サステナビリティに配慮した選択肢や商品を選ぶ
これらを見て、「俗にいう富裕層の観光客と傾向が被っていないか?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、「10代~20台前半のZ世代はまだまだ金銭的に余裕の無い人々が多いことを考えると、富裕層とは当然、旅行のスタイルも異なるのではないか?」という疑問もおそらくあるでしょう。
観光庁が2021年6月に発行した「上質なインバウンド観光サービス創出に向けて」という報告書の中では、富裕旅行業界のトレンドとして以下の6つが挙げられています。
1. 観光化されていない地域への訪問
2. 複数地域の訪問
3. 食に重点をおいた旅
4. 友人や仲間同士のつながりを重視した旅
5. EQを高める旅 例:趣味や関心事を深める旅、より地域らしい宿泊施設の利用
6. より旅を楽しめる環境 例:航空機の機側での出迎えや入国時の手続きでの特別対応などの会員制のサービスの提供
いかがでしょうか。6に関しては例外ですが、富裕層も概ねZ世代と同じような旅の嗜好を持っていると言えるのではないかと思います。
当然、Z世代と富裕層の間では投資できる金額に大きな差があるため、商品造成の際にはそういった点を考慮することが必須となります。
しかし、基本的な旅の嗜好が似ていることを考えると、富裕層向けのマーケティングが、実はZ世代向けにも有効である面は、私たちが考えているよりも、意外と多いのかもしれません。
果たして、Z世代の観光客誘致に力を入れる意味はあるのか?
ようやく、ここで本題です。
果たして経済力が弱く、一人当たりの平均消費単価も低いZ世代の観光客を積極的に誘致することに、どれだけ意味があるのでしょうか?
実際、冒頭で触れたように、現在の日本政府のインバウンド政策では、富裕層をいかに多く誘致し、一人当たりの消費単価を上げていくかという点を重視しています。
たしかに、インバウンドは外貨獲得のための重要な輸出産業なので、たくさん消費をしてくれるお客さんを重視することはとても合理的です。また、一人1万円消費するお客さんを100人相手にするよりも、一人100万円消費するお客さんを一人相手にする方が、現場オペレーションの負担も減るでしょう。
このように富裕層誘客の重要性は十分理解しつつも、Z世代を誘致することによるメリットとしては、以下のような点が唱えられています。
1. 若い頃に旅行経験を多く持った人は、そうでない人と比較して、将来旅行をする頻度が高くなる傾向がある。そのため、若者に旅行経験を持ってもらうことは、将来の旅行市場を維持・拡大する上で重要である*1
2. 若い頃に訪れてもらうことで、将来にわたって何度も再訪してくれる可能性が高まる*2
3. 若者は観光地から文化的価値を得て、将来その観光地に貢献をする*2
4. 最新トレンド、特にテクノロジーに敏感なZ世代を市場として取り込むことで、DXの推進につながる*3
以上、ザッとリサーチして発見した点を列挙してみましたが、いかがでしょうか。
経済的利益は他の世代よりも小さく、また日本との距離によっては訪日自体に対するハードルが高いかもしれません。
これら以外にも、もっと考えれば、まだまだメリットは出てくるかもしれません。
個人的には「デジタル空間における情報発信の中心であるZ世代を誘致することで、デジタルマーケティングの効率を高められる」、「Z世代は、将来の富裕層である」というメリットも存在するのではないかと考えています。
また上記で3番目に挙げた「若者は観光地から文化的価値を得て、将来その観光地に貢献をする」という点は、「若いうちに訪れてもらうことで、その土地との心理的コネクションを作る」と言い換えることができるようにも感じます。これからもっとグローバル化が加速していくなかで、いかに世界の中で日本という国のプレゼンスを高めていくかが大きな課題となります。
そのとき、国外に自分達のサポーター・ファンを持っているということは、とても大きな意味を持つでしょう。
さらに、少し大袈裟になりますが(いやむしろまったく大袈裟ではないかもしれない)、このことは観光分野を飛び越えて、今世の中で最もよく使われている単語の一つである「安全保障」の分野でさえも、今後日本の助けになることもあるかもしれません。
ということで、今回は富裕層誘致の重要性が叫ばれる中で、あえてその対極にある若いZ世代を誘客する意味について考えてみました。経済合理性が高い富裕層誘致を進めながらも、若い世代の訪日観光客ももっと多く来てくれるようになれば、より豊かな社会になるのではないかと思っています。
ジャパンガイド事業についての詳細:https://www.export-japan.co.jp/solution_services/japanguide/
*1 観光庁:若者旅行振興について
*2 欧州旅行委員会(European Travel Commision, 2020):STUDY ON GENERATION Z TRAVELLERS
*3 Starcevic,S.,&Konjikusic,S. (2018),Why Millenials As Digital Travelers Transformed Marketing Strategy in Tourism Industry, International Thematic Monograph Tourism in Function of Development of the Republic of Serbia – Тourism in the Era of Digital Transformation, University of Kragujevac, pp.221-24