都道府県別で見る、欧米豪市場インバウンド誘客の現状
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前回記事では、観光庁が出した2023年度の都道府県別の宿泊者実数と訪問率、それにJNTOの訪日来客数などを組み合わせて各都道府県のインバウンドの宿泊&訪問の状況やバランス感などを見ていきました。
今回は、同じようなデータを、欧米豪の主要国に限る形で見ていきます。
東京が90%越え:欧米豪主要8か国旅行者の訪問先
観光庁が定める欧米豪圏の重点市場は、昨年度新たに追加された北欧圏を除けば8か国で米国、カナダ、オーストラリア、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペインとなります。今回はこれらの統計を見ていきます。
まずは、観光庁のアンケート調査を元に上記8か国の訪日来客の都道府県毎の訪問割合を算出したVisit Rateを、インバウンド全体の数字と比較しながら見てみます。
以下図表①をご確認ください。
Visit Rateが欧米豪8国合計>インバウンド全体のところを青、欧米豪8国合計<インバウンド全体のところは橙色に塗り分けています。
ただし、数値が小さいと誤差の影響が大きくなるため、2%を超える数値がない都道府県は、色分け無しとしています。
欧米豪旅行者のVisit Rateは、東京都が91.93%と他を圧倒した数字になっており、欧米豪8国からの訪日来客の9割以上が東京を訪れているのがわかります。
特に興味深いのは広島県で、欧米豪8国からは10人に1人以上の割合で訪問があるのに対して、インバウンド全体としては100人に4人程度となっています。
金沢のある石川県なども同様に、欧米豪からの訪問率がインバウンド全体としての訪問率の倍以上となっています。
この2県は特に欧米豪からの旅行者の訪問が割合として多い都道府県と考えることができるでしょう。
逆に赤に色分けした都道府県は、欧米豪からの旅行者がかなり少数派となる地域と言えます。
ただでさえ訪日来客の絶対数で言うと欧米豪よりもアジアのほうが圧倒的に多いことを考えると、Visit Rateでも全体を欧米豪が下回る地域は、現状とりわけアジア圏からの旅行者が多いところと考えられます。
訪れる外国人旅行者の2人に1人が欧米豪圏の広島県
上記のVisit Rateの数値に、JNTOの訪日来客数を当て込んで見込み来訪者数を算出し、各都道府県ごとに欧米豪8か国の旅行者が何%になるか計算したのが以下図表②です。
各都道府県とも左の列から順に都道府県名、欧米豪8国の見込み来訪者数、インバウンド全体の見込み来訪者数、欧米豪8国の旅行者の割合を欧米豪来客率として表示しており、一番右下に日本全体での数値を掲載しています。
色分けは、欧米豪来客率を基準にして、日本全体の数値である16.86%より高い都道府県を青、低い都道府県を橙色としています。
また、それらのうち数値が倍以上である都道府県は濃い青、半分以下である都道府県は濃い橙色にしています。
先程の図表①で欧米豪8国からのVisit Rateがインバウンド全体の倍以上であった広島県と石川県が、ここでも突出して高い欧米豪来客率であることがわかります。
逆に濃い赤に色分けされているのは全て九州の県です。九州方面へは特にアジア圏からの旅行者が多いことが感じられますが、そんな中で鹿児島県だけは欧米豪来客率26%と高めな数値であるのは面白い現象です。
欧米豪、特に欧州方面からの旅行者に人気なエリアとして鹿児島県には屋久島がありますが、その影響かもしれません。
地域での欧米豪向け誘客の課題としての宿泊
続いて、宿泊について見ていきましょう。以下図表③をご覧ください。
こちらも観光庁の統計から出したデータで、各都道府県ごとに左から順に欧米豪重点8国の延べ宿泊者数、インバウンド全体の延べ宿泊者数、インバウンド全体における欧米豪8国の延べ宿泊者比率を欧米豪宿泊率として、掲載しています。
延べ宿泊者数なので、同一の旅行者1名が3連泊した場合、3名としてカウントされます。そのため宿泊人数というよりも泊数と考えたほうが妥当です。
色分けは右下の全国合計の欧米豪宿泊率を基準とし、それより比率が大きい地域を青、少ない地域を橙色、また10%以上大きい都道府県は濃い青、10%以上少ない都道府県は濃い橙色としています。
広島、石川に加えて神奈川、京都など欧米豪来客率の高かった地域が同様に欧米豪宿泊率も高めであることが確認できます。
山口県や岡山県など、意外な地域も全国の数値以上となっています。
一方で、来客率と違って、宿泊率では殆どの地域が全国の数値19.58%よりも低い欧米豪率となっている点に注目です。
例えば、欧米豪来客率では25%を越えていた長野県や岐阜県でも、宿泊率では15%未満となっています。
こうした傾向を見ていると、欧米豪圏向けのプロモーションにおいては、いかに地域に宿泊してもらうか、あるいはいかに連泊してもらうか、といった点が大きな課題と考えられそうです。
情報収集と訪問の関係
最後に、先程の図表②の欧米豪8か国の都道府県別見込み訪問者数を、同じく欧米豪8か国からのアクセスに限ったjapan-guide.comのデータとグラフにして並べて見てみます。
japan-guide.comを本国から見ている旅行者の方は訪日旅行計画中であることが多いので、タビマエの情報収集と実際の訪問との比較となります。
47都道府県の間で数字の乖離が激しいため、見込み来客数上位の都道府県と下位とで分けて表示しますが、まずは上位からです。
青の棒グラフは、図表②でも登場した欧米豪8か国の都道府県別見込み来客数です。
橙色のほうは、同じ8か国からのアクセスで、ジャパンガイドの各都道府県コンテンツを閲覧したPVの合計です。
もちろん欧米豪の旅行者全てがジャパンガイドを見ているわけではありませんが、並べてみると、数字に近さがあるのが感じられるのではないでしょうか。
成田空港がある千葉県は特に顕著ですが、東京や大阪など国際空港のある都道府県は来客数がPV数よりも大きく上回る傾向があるのが伺えます。
対して、見込み来客数の数倍ページが開かれている山梨県や岐阜県、長野県、北海道などは熱心に情報閲覧をされているのが伺えます。
もちろん、調べた末にその地を訪れなかった人もいれば、熱心に様々な情報を閲覧した上でその地を訪れている人もいると思われます。
見込み来客数で下位にくる都道府県は次のようになります。
茨城県や高知県など例外はありますが、全般的に見込み来客数が少ない都道府県になると、その数を大きく上回るPV数となる傾向が伺えます。
いずれもタビナカでのアクセスではなく、タビマエでのアクセスなので、「近くまで来てみたから」ではなく、あらかじめ訪日旅行計画をしている最中に調べられていることになります。
ちなみに、上記で橙色の棒グラフにしている2023年の欧米豪8か国からのジャパンガイドの都道府県別PVアクセスを詳細な数字とともに並べると次のようになります。
全体的な傾向としては、ゴールデンルート(東京→富士箱根圏→関西圏)に該当する都道府県が上位に来ており、次いで北海道、広島、岐阜、長野、奈良、兵庫となっています。
図表②の来客数とのギャップで言うと、成田空港やTDLの効果で見込み来客数の大きかった千葉県がかなり下の順位に付けていること、逆に北海道が上位に付けていることなどが特に目に付く傾向です。
図表②を見ると、北海道は欧米豪8国からの見込み来客率が低めな地域でした。
それに対して、同じ国々からのアクセスのみで集計したジャパンガイドのPVにおいて北海道が上位に来ているのが確認できます。
北海道は東京や京都からは距離的な隔たりがあるため、ゴールデンルート周遊のついでなどで訪れられることは少ない地域です。
そのため初回の訪日旅行で北海道を訪れる旅行者は少なくなりがちな傾向にありますが、関心を持っている人は決して少なくないのだと思われます。
こういった地域は、再来日の際に、優先度の高い目的地として訪問されることが考えられます。
最後に
観光庁やJNTOの調査を基にインバウンド全体の分析を行った前回記事内容をベースに、今回は欧米豪主要8国に限る形での分析を行ってみました。
インバウンド全体と比較しても、欧米豪圏からの旅行がゴールデンルートに偏りがちになる傾向が、特に宿泊の数値から伺えると思います。
一方で、最後に表示したジャパンガイドへの本国からのアクセスデータを見る限り、ゴールデンルート外でも相当に情報閲覧されている地域があることが伺えます。
地域誘客のためには認知度拡大も重要ですが、知ってもらうだけでなく、関心を持ってくれた旅行者に実際に来てもらうための施策も重要となります。
ジャパンガイドでは、実際に訪れてみて味わえる魅力を記事や動画などで発信しています。誘客や滞在促進についてご相談があればぜひお申し付けください。