Information
ブログ

ブログ

急成長中の2024年インバウンド市場 欧州からの訪日旅行を分析

ブログ EXPORT JAPAN

ピーク間近、2024年急上昇中の欧州からの来客

2024年も残り4か月を切り、まもなく10月を迎えようとしています。
秋、とくに10月は春と並んで欧米豪圏からの訪日旅行者が増える、ひとつのピークと言われています。北米からの訪日旅行者も増えますが、10月に特に多くなるのは、欧州からの旅行者です。
以下図表①は、欧州と北米(米国とカナダ)の月毎の訪日来客数をまとめたグラフです。

図表①:2017、2018、2019、2023年の北米・欧州の月別訪日来客数推移
※日本政府観光客「訪日外客統計」より

単年の比較だと欧州での訪日需要の回復が鈍かった2023年、ラグビーW杯のあった2019年などの影響でブレてしまうので、コロナ禍を除く過去4年間の欧州(青系色)と北米(橙系色)の訪日来客数を載せてみました。
緑の枠の中には、欧州・北米の通年での訪日旅行者数を各年で載せていますが、どの年においても北米二か国からの旅行者合計のほうが欧州全体からの旅行者より多いことがわかります。

にも関わらず、紫の破線を引いた10月のところを見てみると、欧州市場における訪日需要が伸び悩んだ2023年を除くと、どの年においても10月は欧州>北米の訪日来客数となっているのが確認されます。

図表①だけを見てしまうと、2023年の欧州からの旅行者数が低調であるため今年はどうなんだろうと思えてしまうかもしれません。
日本政府観光局(JNTO)では今年の1~5月までの欧州全体からの訪日来客数暫定値を出しています。以下図表②ではそちらをまとめてみました。

図表②:2018、2019、2023、2024年の欧州の月別訪日来客数推移
※日本政府観光客「訪日外客統計」より

水色の線で示した2024年の5月までの傾向を過去年度の同期間と比べて見ていただくと、既に欧州市場からの訪日来客数は2023年の停滞を脱し、コロナ前を大きく上回る数値になっていることが感じられるかと思います。

以下の図表③はジャパンガイドでの欧州ユーザーのアクセスデータです。こちらも前年を大きく上回っており、来客数増加との相関性を思わされます。
欧州からの旅行者は比較的早い段階から旅行計画を立て始めている場合が多く、訪日来客数の増加が2月から始まっているのに対し、情報収集面での動きはもっと早い段階から開始されているものと思わされます。

図表③:ジャパンガイド欧州ユーザーアクセスの推移(2023年&2024年1月1日~8月31日)
 ※Google Analyticsより

8月になっても前年を大きく上回る増加傾向は続いており、このままの勢いで10月には3-4月のピークと同等の数の旅行者が訪れる見込みは高いのではないでしょうか。

 

欧州からの旅行者の約8割が英語で情報収集を実施

ここからは、今年に入って大きな成長を見せている欧州市場について考えていきます。
欧州からの訪日旅行に関する特徴として、大まかに次のような点が挙げられます。

1.距離が遠い
一例ですが、ロンドン→東京とニューヨーク→東京が、直行便だとだいたい同じ所要時間となります。米国の場合は西海岸やハワイから訪日する方も多いことを思うと、欧州は米国よりさらに距離がある、と考えたほうがよいです。

2.消費単価が高い
訪日来客数自体はアジア主要国と比較して大きく劣るものの、消費単価が高めな傾向にあるのは欧米豪圏共通の特色です。(以下図表④参照)

図表④:一人当たり訪日旅行消費額平均の比較
 ※観光庁訪日外国人消費動向調査2023年より

3.訪日歴・頻度の低さ
1の距離感の影響で、欧州の人々にとって訪日旅行はまとまった日数が必要となり、ハードルが少々高めなものとなっており、そのため訪日リピーター率も低めとなります(下記図表⑤参照)。

図表⑤各国訪日旅行者の訪日経験比較
 ※観光庁訪日外国人消費動向調査2023年より

欧米の旅行者がいわゆるゴールデンルート(人によって+広島)と呼ばれる東京~富士箱根~京都を結ぶ旅程で動く人が多いのはこのためで、初訪日で最もポピュラーなところを、という傾向になっています(初めてペルーを訪れる日本人がまずマチュピチュに行こうとするのを想像すると、イメージしやすいと思います)。

4.平均滞在日数が長い
こちらも1と関連する項目ですが、日本に来るのが容易でない分、一度の旅行での滞在期間も長くなります(以下図表⑥参照)。

図表⑥各国旅行者の訪日平均滞在日数
 ※観光庁訪日外国人消費動向調査2023年より

平均滞在日数については欧州が特筆して長い傾向にあり、米国を顕著に上回っています。
おそらく社会制度の違いにより取得できる休暇期間の差異が理由と推測されますが、欧州からの旅行者は先述したゴールデンルートに加えて別の目的地が複数旅程に加わる場合が多いです。

5.言語が様々
ほぼ英語だけが使われる米国やオーストラリアとは異なり、欧州で英語を母国語とするのは英国とアイルランドだけです。そのため、欧州向けで対応しようとなるとフランス語やドイツ語など、他の言語も必要なように感じられます。

この点がネックとなり、欧州向けの多言語対応に壁を感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。実際、コスト面で可能なのであれば各国の母国語で対応できるのが理想ではあります。
しかし、結論から言うと、言語に多様性のある欧州向けであっても、大半は英語で対応が可能です。
以下、観光庁による調査の結果を表示します。

図表⑦:訪日旅行に関する意識 (満足度など)役に立った旅行情報言語
 ※※観光庁訪日外国人消費動向調査2023年より

こちらは観光庁消費動向調査で集計された訪日旅行意識調査のうち欧州の国々の情報を集めたものです。旅行情報収集の際に役に立った言語が回答されたデータが、国毎にまとめられています。
英語を母国語とする英国の旅行者の99%が英語情報を「役に立った」と回答しているのは予想通りですが、他の国々でも80%以上の高水準となっています。
いずれにおいても母国語の情報とほぼ変わらない水準か、母国語以上に英語が役に立ったという結果になっており、言語に多様性のある欧州においても英語に汎用性があるのがわかります。
北米やオーストラリア、あるいはシンガポールやマレーシアなどの東南アジア圏などを意識して英語で既に情報発信を行われている地域や事業者様の場合、言語面で言えば既に欧州からの旅行者の8割以上を迎える準備ができていると言えるでしょう。

 

ゴールデンルートに加えた行き先を探す欧州旅行者

最後に、欧州旅行者がタビマエにどんな情報を需要しているかの参考に、欧州ユーザーからよく見られているジャパンガイドのページを紹介させていただきます。
ちなみに、2024年8月末までのジャパンガイドにおける欧州からのアクセスは次のようになっています。

図表⑧:ジャパンガイド国別ユーザー分類(2024年1月1日~8月31日)
 ※Google Analyticsより

上記の右の円グラフに表示している欧州のアクセストップ10か国からの昨年9月1日から今年8月31日までの1年間のアクセスを抽出して、よく閲覧されているページを出したものが下記図表⑨です。

図表⑨:ジャパンガイド欧州10か国アクセスベスト30(2023年9月1日~8月31日)
 ※Google Analyticsより

欧州のデータだけでは特徴がわかりづらいため、米国ユーザーの傾向と比較した数値を添えています。
サイト全体においては、米国の1354万PVの約60%程度にあたる819万が欧州10か国の1年間での合計PV数です。(対米国比率-39.54%)

この数値を基準値として、基準値よりも対米国比率が5%以上多いページを青5%以上下回るページを赤としています。
特に数値のギャップが大きい項目を太字としています。

主に青になっている項目、とくに太字になっている項目を見ていて感じさせられるのは、先に挙げた平均滞在日数の違いによる影響です。
米国の旅行者が滞在日数の関係でゴールデンルートでほぼ終結してしまいがちであるのに対し、欧州からの旅行者は加えて2-3の目的地がある旅程の場合が多く、その傾向として「金沢」「高山」「高野山」などといったゴールデンルート以外の滞在先の情報が比較的多く閲覧されているのがわかります。
ちなみに、金沢と高山は22位にランクインしているジャパンガイドオリジナルのモデル旅程14日間の中にも含まれているため、そちらからの流入も多いものと思われます。
「目的地一覧」「サイト内検索」といったページが米国ユーザーよりも頻繁に見られているのも、ゴールデンルート外でプラスアルファの目的地を自ら探しているからと考えられます。

最も特徴的なのは「JRパス計算ツール」のページです。
このページは米国ユーザーからもよく利用されているページですが、欧州ユーザーからのこのページへのアクセスは特に多く、様々な目的地を訪れるため、頻繁にこのツールを使用して計画に役立てているのではと考えられます。
一方で、大まかなエリアのページに対して観光名所などスポット情報の閲覧は少なく、17位に伏見稲荷大社がランクインしているのが、上記図表⑨では唯一となっています。

滞在する場所だけを旅行計画の早い段階であらかじめ決めておいて、各滞在地でどこに行くか等のプランはそれほど細かく決めないスタイルでの旅行者が多いのかもしれません。

 

最後に

ここまで、現在進行形で欧州市場が伸びていることと、欧州からの旅行者の大まかな特徴に関して述べてきました。
距離の問題もあるため、欧州市場からの来客数はインバウンドというパイ全体で考えると、決して大きな数字ではありません。
しかし、消費単価の大きさや滞在日数の長さの点から、英語圏最大の米国市場とはまた違ったアドバンテージがあります。

今回は紹介できませんでしたが、米国と比較して欧州でのアクセス比率が高い地域の例として、他に直島やしまなみ海道、上高地、屋久島なども挙げられます。
ゴールデンルートの前後でルートから外れて別の目的地に行こうとする傾向が伺えるため、米国市場では誘客を図りにくい地域でも、欧州ではうまくいく可能性もあります。

一方で、日本に対する解像度は決して高くない市場なので、知名度の低い地域の場合、適切な情報発信による訴求が欠かせません。
そのための手段の一つとして、ジャパンガイドによる記事や動画でのプロモーションもぜひご検討ください。

関連記事