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地方鉄道パス需要が上昇中、最新のインバウンド傾向

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前回記事では、この一年ほどの間でのインバウンドの伸びと、直近にて特に伸びている様子が確認できる欧州からの旅行者を特集しました。
こちらの記事では、同じくこの1年間の分析として、「japan-guide.com」への海外ユーザーのアクセス状況をもとに、インバウンド旅行のトレンドについて考察してみたいと思います。

特に、JR Passの需要の減退と地方鉄道パスの需要の増加、そして長期間旅程へのニーズの高まりに焦点を当てます。

 

JR Passに代わる日本国内移動の選択肢

多くの訪日外国人にとって、日本での旅行といえば鉄道移動がイメージされます。
例えば、英語の旅メディア『Lonely Planet 』の記事では、次のように述べられています。

Trains are the most popular way for travelers to explore Japan, and arguably the best.
(鉄道は日本を旅するにあたって最もポピュラーで、ほぼ間違いなく最良の方法である。)

上記の認識は広く訪日旅行者に浸透しており、なかでも滞在日数の長めな欧米豪圏の旅行者の場合、従来はまずJR Passを購入することが検討されてきました。

しかし、この傾向がこの一年間で大きく変わっています。
昨年10月のJR Passの料金改定が主な要因です。
改定の影響は大きく、従来は1週間なら29,650円、2週間なら47,250円で購入できたJR Passが、改定後は1週間なら50,000円、2週間なら80,000円に変わりました。約1.7倍程度の上昇です。

「ジャパン・レール・パス」料金改定プレスリリースより

この結果、 JR Passに対する訪日旅行者の需要にも変化が起きました。
以下は、ジャパンガイドのこの1年間(2023年9月~2024年8月)とそれ以前の1年間(2022年9月~2023年8月)でのページ別アクセス推移です。他のページのアクセスが概ね伸びているのに対し、赤字にしたJR Pass」のページのアクセスが落ち込んでいるのが確認できます。

図表①:japan-guide.com よく見られているページトップ20 (シーズン記事を除く)
 ※Google Analytics 2022/9/1~2024/8/31

この「JR Pass」ページの動きと、太字にしてある「JR Pass計算機」や「鉄道パス一覧」のページの動きがこの一年間の特に大きな特色です。
「JR Pass計算機」のページは、ユーザーが自身の旅程を入力すれば、大まかな移動のコストが計算され、JR Pass料金と比較して購入がお得かどうかを表示してくれる仕様になっています。

japan-guide.com 「Japan Rail Pass Calculator」ページ

従来は、1週間で東京ー京都の往復の旅程でも、空港との移動や移動日以外の日の観光でのJR利用まで考慮すれば、とりあえず購入しておいて損がなかったところ、今では余程慎重に考慮しないと大きなマイナスになってしまいます。
そのためか、自身の旅程と照らし合わせて、JR Pass購入の是非を検討するようになったユーザーが増えているのが「JR Pass計算機」の利用者が増えている背景と考えられます。

以下図表②は「JR Pass」の概要のページと、「JR Pass計算機」のページの、2022年10月(入国規制緩和の頃)からのアクセス推移です。
もともと青色の線で示している「JR Pass」のページはサイト内でも最もPVの多いコンテンツのひとつでしたが、こちらが料金改定の2023年10月のタイミングで大きく減退、かわって今年の1月から橙色の線で示している「JR Pass計算機」のページのアクセスが大きく増加しました。

図表②:japan-guide.com 「JR Pass」関連2ページのアクセス推移
 ※Google Analytics 2022/10/1~2024/9/30

「JR Pass計算機」のページが1月に大きく上昇した要因には、同時期に行ったページの仕様変更があります。JRパス料金と旅程にかかるコストとの単純比較に加えて、新たに各地方の鉄道パス情報も旅程に応じて表示するよう変更されました。

japan-guide.com 2024年1月の新着記事・更新一覧

この結果、旅程にかかるコストとJR Pass料金の比較を見たいユーザーだけでなく、使えそうな地方の鉄道パス情報も確認したいユーザーの利用が増加し、今に至っています。
これに合わせて地方の鉄道パスの概要を一覧にしている「鉄道パス一覧」のページへの需要も増加しています。(図表①参照)

料金改定によってJR Passへの需要には大きな変化が生じたとはいえ、日本の鉄道に対する各国旅行者の評価の高さは変わっていません。
「これまではJR Passが安すぎた」ということが国内事業者間では言われていますが、JRパスの料金が上昇した分、従来はあまり注目されることのなかった地方の鉄道パスへの関心が高まっており、地方での周遊を促す意味ではポジティブな兆候とも考えられます。

他にも、年間のアクセストップ20には入っていないものの、レンタカー高速バスのページも好調です。JR Passの一強だった旅行者の移動のオプションが多様化していると考えられます。

 

長期Itineraryへの需要増加

上述したJR Passほどの大きな変化ではありませんが、他に興味深いものとして、Itinerary(旅程)の提案コンテンツが伸びている点も挙げられます。

ジャパンガイドにはモデル旅程を提案するページがあります。
こちらではいくつかの決定版ルート(Best of~)をサムネイル表示で紹介している他に、ユーザーの計画に応じたモデル旅程も紹介できるような設計になっています。
例えば日本全国を旅するのか、九州だけや関東だけというように地方を絞るのかを選んだ上で、合計の訪日滞在日数と使用する空港を入力すればオススメな旅程を提案するような内容です。(詳細は下記リンク先参照)

https://www.japan-guide.com/e/e2400.html

japan-guide.com Itineraryページの仕様イメージ

日本人が旅行に行く場合でも、行き先が初めて訪れる地の場合はこのようなモデル旅程を参照にする場合が多いですが、この点は訪日旅行者でも同様です。

この旅程関係のカテゴリーのうち、トップページとサムネイル表示しているページへのアクセスは次のようになります。

図表③:japan-guide.com 「Itinerary」カテゴリー主要ページのアクセス推移
 ※Google Analytics 2022/9/1~2024/8/31

中部、関西、中四国など、一部の旅程のアクセスは減退しているものの、全体的に大きなプラスであることがわかります。

訪日14日間決定版」は最も人気のあるitineraryで、かなりハイペースではあるものの東京・日光・箱根・京都・奈良・姫路・宮島・広島・金沢・白川郷・高山など主要な地を巡っていく内容となっており、約2週間で日本の有名な観光地をできる限り訪れたいという、どちらかというと初めて訪日旅行をする人向けな旅程です。
こちらは前年比35%超のアクセス増加と特に閲覧が増えていますが、それだけ訪日ビギナーの方が多くサイトに流入しているのだと考えられます。
地方では北海道()や九州という、いずれも所謂ゴールデンルートからは遠く離れた地での旅程へのアクセスが多めです。
これらについて、以下図表④を見ていただくと、日本全体を巡る旅程の閲覧者は欧米豪諸国が中心で、北海道や九州の場合はシンガポールなどアジア圏からの注目が高くなるのがわかります。

図表④:japan-guide.com 「Itinerary」の国別アクセス内訳
 ※Google Analytics 2022/9/1~2024/8/31

また、ユーザーが入力する滞在日数や空港情報に対して表示される旅程ページへのアクセス推移を見てみると、次のような興味深い現象が確認できました。
以下図表⑤をご確認ください。

図表⑤:japan-guide.com 「Itinerary」の旅程カテゴリー別アクセス推移
 ※Google Analytics 2022/9/1~2024/8/31

こちらは旅程カテゴリー毎でこの1年間とその前の1年間での推移を記載したものですが、全般的に長期旅程のアクセスが増加傾向にあることがわかります。
前回記事で触れた欧州もそうですが、他にオーストラリアやニュージーランドなど、長期滞在者の多い市場からの訪日旅行者数が増加していることと関係していると考えられます。

 

最後に

今回は、この1年間の傾向として、JR Pass需要減退に伴う形での地方鉄道パス需要の増加や、長期のモデル旅程へのアクセス増加が伺えることを紹介しました。
需要が減退しているとは言え依然としてJR Passの知名度は高く、欧米豪圏からの長期での訪日旅行を検討される場合、まず選択肢として考える人は未だに多いものと思われます。
それに比して、関心が高まりつつあるとは言え、残念ながら未だ各地の鉄道パスの認知度は高いとは言えません。特に、初めての訪日旅行を計画されている人にとっては情報を入手しづらいところでしょう。

そこで、タビマエ段階からの情報発信として、特定の鉄道パスを使った旅を、モデル旅程として紹介していくことで、旅行者にそのような旅の選択肢があることを印象付けることができます。
この場合、旅行者にはひとつの地域だけの情報発信をするのではなく、近隣にある様々な地域の魅力をまとめて伝える形になるため、地域単独ではなく、広域での相乗的な効果も見込めることでしょう。

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