インバウンドプロモーションを英語から始める3つの理由
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8月16日に日本政府観光局(JNTO)が発表した2023年訪日来客数データによると、2023年1月~7月の累計訪日外国人数は1,303万人以上と、中国を除いた国からの来客総数ではコロナ前の2019年実績を上回ることがわかりました。
こうした背景からか、インバウンド向けプロモーションに新規着手するという自治体ご担当者の声を耳にする機会も増えています。とはいえ、ある程度ターゲットや方向性が定まっているのでない場合、インバウンドプロモーションに取り組むと言っても選択肢は多岐に渡っており、優先順位付けが難しいかもしれません。
そこで今回は、インバウンドプロモーションを英語から始めることによるメリットについて解説させていただきます。英語でインバウンド向けにプロモーションするメリットは様々にありますが、大きく下記の3つにまとめて解説させていただきます。
①英語圏旅行者から見込める消費単価
②英語情報を理解できる旅行者の数と多様性
③英語という言語が持つ発信力・拡散力
以下、公になっている情報やジャパンガイド独自データも添えて順番に見て行きます。
重要指標「旅行者1人当たり消費額」が高いのは英語圏
現在の観光庁のインバウンド戦略では訪日旅行者の「来客数」よりも「消費額」に重点を置いた目標が据えられています。以下画像をご覧ください。「観光立国推進基本計画」概要からの抜粋です。
新設の項目である「訪日外国人旅行消費額単価」とは旅行者一人当たり消費額のことです。2019年のこの数字は155,281円でしたが、円安の影響もあって現在は大きく数字が伸びており、目標額である200,000円に対して2023年の1~6月までの通算は193,812円です(4-6月の期間だけで見ると達成済)。度々騒がれたオーバーツーリズム問題への反省から、現在では旅行者一人当たりの消費額に重点が置かれるようになっています。
このような観光庁の意向を踏まえた上で、主要訪日国の消費動向を見てみましょう。下記図表1は観光庁消費動向調査内容から作成したグラフです。
基本的に欧米豪の国々が1人当たり旅行消費単価では高めな傾向にあることがわかります。英仏独といった西欧や米豪などの訪日旅行者1人当たり旅行消費額では2023年現在目標とされている20万円を2019年の時点で越えており、インバウンド解禁や円安の影響による急上昇の影響を外して考えても十分に高単価が狙える市場と言えます。
アジアに目を移すと、2023年度の中国の1人当たり旅行消費額の良さが目につきますが、中国では依然として訪日旅行が本格化していないため、かなり限られた一部の層の影響が色濃く出た結果です。本格的に中国のインバウンドが解禁された場合の1人当たり旅行消費額は、2019年の数値が少し伸びる程度に落ち着くと考えるのが妥当でしょう。
せっかくなので金額の内訳も見てみましょう。2019年の1人当たり旅行消費額の内訳は国毎で次のようになります。
娯楽・体験代というのはガイドツアーや文化体験のようなアクティビティからミュージアムやテーマパークの料金まで含めたもので、例えば現在観光庁が造成を促進している高付加価値体験コンテンツなどもここに含まれます。
上記図表2をご覧いただくとわかる通り、宿泊や飲食等ほとんどの項目において欧米豪の旅行者の消費額が高く、シンガポールがそれに続く形となっています。
例外的に買い物代については中国の消費額が群を抜いて高く、台湾やフィリピンなどアジアの国々の多くも欧米豪より高水準となっていますが、その内訳は化粧品や衣類など大都市圏向けな品目が中心で、お酒類や民芸品などについては欧米豪のほうが購入額が高くなっています。(下記図表3)
以上をまとめると、次のようになります。
・米豪をはじめとした英語圏の国々は一人当たり消費額が高く、観光庁の現行目標である旅行消費単価200,000円、またはそれを上回る額が見込める。
・なかでも宿泊代・飲食代・現地ツアーなどの娯楽・体験代などは欧米豪旅行者ほど消費額が明確に高くなる傾向にある。
・買い物代では中国を筆頭にアジア圏が高めだが、品目はコスメやファッション関係が中心でどちらかというと大都市向け。日本酒や民芸品などは欧米豪の購買額が増す。
英語を使う旅行者は訪日来客数全体の20%以上
英語プロモーションの他のメリットとして、英語を使える旅行者の多様性が挙げられます。公用語として英語を設定している国や地域は多数あり、米英に加えてオーストラリア、ケベック州を除くカナダ、ニュージーランド、南アフリカ共和国、アイルランド、シンガポール、フィリピン、インド、香港などが挙げられます(実際にはアフリカ大陸を中心にもっと多くの国で英語が公用語となっています)。
もっとも単純に各国の旅行者数が多いわけではなく、訪日旅行者の数だけで言うと下記図表4の通り中国や韓国など近隣のアジア諸国の数字の大きさが目立ちます。
とはいえ上記来客数リストから主な英語圏の国々として米英豪や香港、フィリピン、シンガポールなどの旅行者数を足すと6,166,069人で、これは累計31,882,049人という2019年の訪日旅行者数の20%ほどに該当し、訪日旅行者数第2位の韓国を上回ります。
また、これら以外の国でも第二言語として英語教育が高水準で為されているケースは多々あり、母国語ではなくとも英語を話せるという旅行者は少なくありません。
上記図表5は、スウェーデンの語学学校EF Education Firstが発表した英語力水準の国別ランキングです。見てみると、フランスやスペインなどは標準といったところですが、オランダや北欧諸国を筆頭に欧州の多くの国が高水準の英語力を有していることがわかります。このランキングの上位に来ているオランダやドイツ、北欧諸国などは英国等と同様1人あたり旅行消費額でも多くを見込める層であるため、消費額の多い欧州諸国の多くに効果が見込める英語でのプロモーションには単純な来客数以上の価値があると考えられます。
もちろん英語力は個々人によって異なるものなので一概には言えませんが、英語でのプロモーションは、英語を公用語とする国々以外の人にも効果が期待できると言えます。
次に、実際にジャパンガイドでどうなのかを見てみましょう。
上記図表6は、入国規制緩和が発表された昨2022年9月26日から12月25日までのジャパンガイドへの国別上位20か国です。米豪など英語を使い慣れている国々が多く名前を連ねていますが、先程のランキングでは英語力水準が低い国とされていたタイやインドネシアも上位に位置しており、例えばタイからは1日平均1,370人のユーザーが英語を使った訪日メディアであるジャパンガイドに訪れている計算となります。
このタイからアクセスされているユーザー数12万人という数字をどう捉えるかですが、JNTOが発表した2022年10月~12月のタイからの訪日来客数は169,169名でしたので、決して無視できない数値と言えます。こちらについては憶測になってしまいますが、国全体としては英語力が低いとされていても海外旅行をする層では高い水準で英語力を備えているケースが多い、といったことがあるのかもしれません。
勿論リソースが十分にあればターゲットとする各国別にそれぞれの言語でのプロモーションを実施できるのが理想です。しかし現実にはコストの問題で出来ることは限られています。そのため、ターゲットである米英豪シンガポールなどといった英語圏の国の人々以外にも伝わる見込みが高い英語での発信は、最も応用の効くプロモーションであり、初めに取り掛かりたい施策であると言えます。
以上をまとめさせていただきます。
・米豪など国単位での旅行者数は中国や韓国に匹敵するほどではないが、英語圏の国々の訪日旅行者数を足すと訪日市場全体の20%程の来客数になる。
(現在は中国からの来客が滞っているため、さらに割合は大きくなります)
・オランダやドイツや北欧諸国など、消費額の大きい欧州の多くの国の旅行者に対しても英語での発信は効果をあげる見込みが高い。
・タイやインドネシアなど一般に英語力が低いとされる国でも、少なくない数の旅行者が英語での訪日旅行情報収集を行っている。
将来的なプロモーション効果も見込める英語での集客
最後に、英語でのプロモーションが持つ強みとして、英語ならではの発信力や拡散力が挙げられます。具体的には、GoogleやTripAdvisorなどといったサイト上に残された英語による口コミ・レビューのことです。
こうした口コミは、利用する体験や飲食店、訪れる観光スポットなどの選択の際に影響を与えることが近年様々な形で発表されていますが、下記参考リンク先の口コミアカデミーによるレポートでは、日本語によるものよりも外国語のレビュー・口コミのほうが高得点がつきやすい旨や、外国語のなかでも英語による口コミの数が他を圧倒して多いことなどが述べられています。
参考:【2023年最新】 インバウンド人気観光地ランキング[東京編] 英語・中国語・韓国語 ほか 5つの外国語口コミを分析
例えば、東京の浅草寺は毎年様々な国から多くの観光客が訪れるスポットで、訪日旅行者なら必ず訪れていると言ってもいいような場所ですが、こちらについているGoogleの外国語口コミ件数はレポートによると220件です。
先述の図表のJNTOによる2019年度来客調査で言えば中国・韓国・台湾など極東圏の国々だけで訪日来客数の6割以上でしたので、あらゆる国の人々が訪れている浅草寺のような場所は、単純に考えれば極東圏の言語の口コミこそ多く寄せられそうなところです。ところがレポートを見てみると、浅草寺についた外国語口コミ件数220件のうち半分以上となる116件が英語によるものであることがわかります。
浅草寺についてはあくまで一例ですが、レポートを細かく見てみると他の観光スポットでも程度の違いこそあれ同様のことが起きているのがわかります。
このことは、欧米豪などといった西洋文化圏の国々では購買などの意志決定時に口コミを重視し、参考にする文化が日本などよりも強く根付いているためと考えられます。
オンライン上に付いたポジティブな口コミは、サイトのユーザーが見て参考にするだけに留まらず、GoogleやTripAdvisorなら表示の優先順位などにも影響します。良い口コミの数がたくさん貯まれば貯まるほど、将来的により多くの集客を見込みやすくなる仕組みになっています。
また、先述した通り英語を読める人は英語圏の国々だけに限られないため、英語圏の国の旅行者が書いたレビューが、非英語圏の人の選択に影響を与えることも見込めます。
英語圏の国々に向けたプロモーションを行って集客することは、そこで集客した旅行者達によって多くの口コミが残される見込みが高いこともあって、更なる将来的な集客への呼び水的な効果も期待できる、ということが言えます。
こちらについて以下にまとめます。
・訪日来客数とは比例せず、GoogleやTripAdvisorなどに寄せられる口コミの数は英語のものが他の言語のものより多くなりやすい。
・レビュー・口コミを寄せることが期待できる英語圏の旅行者を呼び込むことは、将来的なプロモーション効果も見込みやすい。
まとめ
ここまで、英語圏に向けたプロモーションをするメリットを大きく三つほど、紹介してきました。これらに加えて、短期的に見れば2023年現在はコロナ前と比較しても北米を中心として英語圏からの来客が大きく伸びており、その意味でもタイミングとして良い機会でもあります。
最後に、今後について。
10月に予定されているJRパス料金の大幅上昇の影響が最も大きく出るのが、滞在期間が長く、旅程範囲の広い欧米豪の旅行者です。価格改定以降はJRパスを使用しない旅行者も少なくなくなると思われますが、その影響で行動や旅行計画の立て方が変わっていく可能性があります。
そのことによって従来より英語圏旅行者の訪問が減ってしまう地域も出てくるかもしれませんが、「JRパス利用」という括りから解放された分、旅行者の行き先が多様化していく可能性も考えられます。これまでJRパス的な観点から英語圏旅行者と縁の薄かった地域にとってはチャンスとなっていくかもしれません。
具体的な英語圏へのプロモーションを実施する上でのポイントについては、当ブログでもこれまでいくつか記事を掲載しています。
ご興味・ご関心のある方は下記も是非ご覧ください。