ジャパンガイド独自データからの分析 温泉地ごとの国別アクセス
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前回の更新から少し時期が開いてしまいましたが、UU数(ユニークユーザー数)別で閲覧者の多い温泉ページのランキングを作成した前回記事に続いて、今回の記事では具体的な温泉地のページのデータを紹介させていただきます。
以下で触れていくのはジャパンガイドのサイト上でアクセスの多い温泉地のページばかりですが、それぞれにどんな国のユーザーがどのくらい情報を閲覧しているかを見ていきます。
アメリカの旅行者からの関心が特に強い箱根
まずは前回記事で上げたUU数統計にて、ジャパンガイド上の温泉地ページで最も訪問者が多かった「箱根温泉」のページのアクセスを見ていきます。
以下図表①をご確認ください。

※Google Analyticsデータ参照: 2023年12月-2024年11月
こちらで掲載している各温泉地ページのデータは、日本語以外の言語設定のアクセスです。
そのため、日本国内からのPV数も外国語利用のもののみとなっており、多くは旅行者のタビナカ利用と推定されます。
図表①左側円グラフの日本国内とそれ以外の国の比率はほぼ2:8となっていますが、おおよそ〈タビナカ閲覧数:タビマエ閲覧数>に近いものと考えられます。
タビマエに限った数値の内訳を見ると、欧米豪圏の数値が大きいのがわかります。
図表①に名前のある米国・オーストラリア・英国・カナダ・ドイツ・オランダの六か国だけでPV構成比の52%を超えます。
箱根は、欧米豪圏からの旅行者が採用することの多いゴールデンルートの行程に入りやすい温泉地です。
箱根を訪れる主目的として多いのは富士山の景観ですが、その滞在中に温泉の利用を検討される欧米豪圏の旅行者も少なくありません。
そうした数値が図表①の結果に反映されていると考えられます。
中でも米国のアクセス構成比は他の温泉地を大きく上回るもので、米国ユーザーの間で特に人気の温泉地と言えるでしょう。
ちなみに、同期間におけるジャパンガイドのサイト全体における米国のアクセス構成比は約21.6%ですが、箱根温泉ページへの米国のアクセス構成比はそれより約5%高い26.48%となっています。
立地の影響も伺える兵庫県の2つの温泉地の傾向
続いて、図表②ではアクセス数第2位の「有馬温泉」のページについて見ていきます。

※Google Analyticsデータ参照: 2023年12月-2024年11月
上記図表②では、箱根温泉で上位に入っていたドイツやオランダに代わって、タイやフィリピンの名前が見られます。
シンガポールやマレーシアなどが箱根の倍近い構成比となっている点も注目です。
その分、箱根と比較すると欧州や北米からのアクセスは少なめとなっています。
箱根も有馬も、東京・大阪といった大都市圏近郊の温泉地という条件は変わらず、交通面でも極端に大きな違いはありません。
しかし、箱根と比較すると、有馬温泉はよりアジア方面からの関心が強めとなっているのが伺えます。
この点には、温泉そのものの特徴というよりも、富士山の景観というファクターの存在が影響していることと思われます。
また、東京と大阪に滞在する外国人層の違いも関係していることでしょう。
タビナカ(日本国内)比率が25%と、他の温泉地と比較して非常に高いのも興味深い点です。
関西圏に滞在する旅行者で、1日のプランを考える際の選択肢として有馬温泉を検討される方が一定数いるものと思われます。
同じ兵庫県でも、城崎温泉のページではタビマエでの閲覧比率が高くなります(下記図表③参照)。

※Google Analyticsデータ参照: 2023年12月-2024年11月
両温泉地は同じ県にありますが、大阪や神戸から有馬温泉へは日帰りでも行けるのに対し、やや遠方になる城崎温泉は最初から宿泊するつもりで訪れるような立地です。
そうした地理条件の違いが、タビマエ・タビナカアクセス比率の違いになっているのでしょう。
また、有馬温泉と比較すると城崎温泉のほうが欧米豪圏の構成比が高めとなっているのも特徴です。
なかでも英国やドイツといった欧州の国は、構成比だけでなくPV実数値も有馬温泉以上となっています。
欧州の旅行者は北米の旅行者より平均滞在期間がさらに長く、ゴールデンルートに加えてさらにどこかへ足を延ばしやすい傾向が見られます。
そうした場合の行先の選択肢として、城崎温泉を検討される方がいるものと推察されます。
シンガポールからのアクセス最多 湯布院温泉
続いて、九州の温泉地を見ていきます。まずは湯布院温泉です。
以下図表④ご参照ください。

※Google Analyticsデータ参照: 2023年12月-2024年11月
先ほど有馬温泉のページについて「アジア圏からのアクセスが多め」と触れましたが、湯布院ではよりその傾向が強く、シンガポールを筆頭にアジアの国々からの構成比が非常に高いのが特徴です。
ジャパンガイドでは50以上の温泉地ページを掲載していますが、それらの中でシンガポールから最もアクセスされているのが湯布院のページです。
シンガポールだけでなくタイやフィリピンからのアクセスにもその傾向は見られ、東南アジア圏からの人気の高さが伺えます。
熊本県にある黒川温泉も湯布院と同様に九州に位置する落ち着いた雰囲気の温泉地ですが、アクセスの内訳からはまた違った傾向が確認できます。(下記図表⑤ご参照)

※Google Analyticsデータ参照: 2023年12月-2024年11月
箱根などと比較すると、東南アジア圏の構成比が高めで九州という位置関係の影響を思わされます。
しかし、同じく九州にある湯布院と比較すると、より欧米豪圏からのアクセス数値が高めとなります。
特に、ドイツなど欧州のいくつかの国において、黒川温泉は箱根に次いで二番目によく見られている温泉地ページとなっています。
黒川温泉はサステナブルな取り組みで名前があがることのある温泉地ですが、そうした要素に特に感度の高い傾向のある欧州で関心を持たれてやすいのかもしれません。
訪問者からの評価数値でナンバーワンの乳頭温泉
今度は東北地方の温泉地の例も見てみましょう。まずは秋田県の乳頭温泉についてです。
乳頭温泉については、アクセスデータを見る前に触れておきたい点として、訪れたユーザーからの評価があります。
ジャパンガイドには、ユーザーが自分の訪れた場所に点数をつけるレーティングのシステムがあります。このレーティングの点数において、日本中の様々な温泉地のうち最もユーザーから高い評価を得ているのが乳頭温泉です。

最高点5.0に対して4.7という点数ですが、そのうち北米のユーザーに限った採点では4.91点とほぼ満点に近い評価を得ています。
それでは、どのような人がこの乳頭温泉に関心を持っているのか、アクセスの内訳も見てみましょう。

※Google Analyticsデータ参照: 2023年12月-2024年11月
乳頭温泉ページのPV数自体は、先程まで紹介してきた温泉地よりも少なめの数値となっています。箱根や湯布院などと比較すると、認知度は高くないと言えるでしょう。
このPV数値と先程のレーティングから、決して誰もに知られているというような知名度ではないものの、訪れた人の満足度は高く、知る人ぞ知る目的地となっているのが伺えます。
内訳を見ると、米・豪・シンガポール・英と、インバウンドで主要な英語圏の国々が軒並み上位に来ており、それぞれの構成比も高めとなっています。
ゴールデンルートからは大きく外れた位置にある秋田県の温泉地というロケーションなので、訪日リピーター層が関心を抱いている可能性が考えられます。
続いて、山形県の銀山温泉の統計を紹介させていただきます。
銀山温泉といえばスタジオジブリ『千と千尋の神隠し(英題: Spirited Away)』を思わせる街並みや『鬼滅の刃』の聖地としても知られており、コロナ禍以前からインバウンドが増加していた温泉地です。
しかし、昨年末にはオーバーツーリズムと交通規制がニュースになりました。
そんな銀山温泉のジャパンガイド上でのアクセス内訳は以下図表⑦の通りとなっています。

※Google Analyticsデータ参照: 2023年12月-2024年11月
現地への訪問者で最も多いのは台湾や韓国からの旅行者だと言われています。
しかし銀山温泉は欧米豪圏の旅行者にも魅力的に映るようで、英語サイトであるジャパンガイドにおいても人気です。
年間PV数61,000はサイト内で紹介している温泉地で上から6番目に位置し、東北では最多です。
国外からのアクセス比率が約9割と非常に多く、タビマエ段階からこの地に関心のある方が多いことが伺えます。
先程のニュース動画ではyoutubeやInstagram等で銀山温泉のことを知ったという旅行者が登場していました。
おそらくはそのような経緯で銀山温泉を認知し関心を抱いた後、検索してジャパンガイドなどの訪日情報サイトに訪れているユーザーも多いと思われます。
オーストラリアからの人気が高い湯田中・渋温泉郷
最後に、長野県にある山之内町(湯田中・渋温泉)のページの統計を紹介させていただきます。以下図表⑧をご確認ください。

※Google Analyticsデータ参照: 2023年12月-2024年11月
こちらのぺージのアクセスの大きな特徴は、オーストラリア人比率の高さです。
タビナカ(日本国内)のアクセスが6,624PV、米国からのアクセスが6,665PVであるのに対し、オーストラリアからのアクセスは大きく遜色ない6,129PVとなっています。
これはオーストラリアと米国の母数の差を考慮するとかなり異例な数値です。
この地に関心を持つオーストラリアのユーザーが特に多いことを思わされます。
ちなみに、昨年NAVITIME様が行った調査によると、湯田中・渋温泉郷はオーストラリアの旅行者の宿泊が全国でも箱根に次いで2番目に多い温泉地であったとのことで、上記のアクセス傾向とも一致します。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000435.000026884.html
湯田中・渋温泉郷は志賀高原のスキー場が近いことからスキー需要を取り込みやすいことに加えて、”スノーモンキー”で有名な地獄谷野猿公苑へ向かう場合の滞在地としても適しています。
スキー場があり、スノーモンキーがあり、温泉街があり……という形で、湯田中・渋温泉郷は温泉単独ではなく面として、旅行者にとって魅力的に映っているのではないでしょうか。
地域という面の中の素材としての温泉
温泉は日本人が国内旅行する際に主目的となりやすい観光資源です。
しかし温泉が主目的で訪日される外国人旅行者は必ずしも多くありません。
というのも、多くの外国人旅行者にとって温泉は馴染みのない文化体験であり、それ故に興味はあるものの、あくまで「可能ならトライしてみたい」という感覚で、「絶対にやりたい」という風にはなりくいからです。
特に欧米豪圏からの旅行者の場合、滅多に来ることができない日本での限られた日数の中で、行きたい場所を廻る形となります。そうなると、アクセスがしづらい地方の温泉地は、余程強い目的意識がないと旅程に入れにくくなってしまいます。
そのため、温泉単独でのインバウンドに対する価値の訴求というのはどうしても限界があります。
それよりも、湯田中・渋温泉郷がスキーやスノーモンキーも合わせた地域としての総合的な魅力で旅行者を惹きつけているように、あくまでも地域という面としての価値・魅力をPRし、温泉についてはその価値・魅力のうちの一つとして知ってもらうことのほうが、来訪・滞在してもらいやすくなるのではないでしょうか。
ジャパンガイドでは箱根について次のような動画を制作しており、その中で彫刻の森や芦ノ湖などと共に温泉も紹介しています。
こちらの動画の視聴回数は公開以来で90万を超えており、数年が経った現在でも安定して視聴され続けています。
上記はあくまで一例ですが、地域自体の魅力・来訪価値を紹介しつつ、その中で地域にあるひとつの要素として温泉の存在と魅力も伝えることで、地域への来訪意欲と温泉への関心、その双方にポジティブな影響が見込めることでしょう。